3Dプリンター フィラメント材料 簡易まとめ
熱でフィラメントを溶かして形を作る形式のFDM(熱溶解積層法:Fused Deposition Modeling)方式3Dプリンターで使われる主要なフィラメント6種類について、それぞれの特徴、用途、注意点をまとめました。
また、材料の硬さについて、ショア硬度という数字が出てくることがあるので、調べました。
主要フィラメント特性 比較表
材料 | ショア硬度 (目安) | 推奨ノズル温度 | 推奨ベッド温度 | 形成速度 (参考) | 材料単価 (参考) |
PLA | 約 85D – 90D (かたい) | 190~220℃ | 50~60℃ (必須ではない) | 40~100mm/s | 比較的安価 |
ABS | 約 85D (やや硬い) | 230~250℃ | 90~110℃ | 40~80mm/s | 安価 |
PETG | 約 80D (やや硬い) | 230~250℃ | 70~90℃ | 30~70mm/s | 標準 |
TPU | 85A – 95A (非常に柔軟) | 210~240℃ | 40~60℃ | 15~30mm/s | 標準~やや高価 |
ASA | 約 85D (やや硬い) | 240~260℃ | 90~110℃ | 40~80mm/s | 標準~やや高価 |
PC | 約 90D (非常に硬い) | 260~310℃ | 100~130℃ | 20~50mm/s | 高価 |
各材料の特徴
PLA(ポリ乳酸)
- 材料の特徴 トウモロコシなどを原料とする植物由来のプラスチック。硬いですが、衝撃にはやや脆い性質があります。熱収縮が少なく、造形が安定しているため、最も扱いやすい材料の一つです。ただし、耐熱性が低く、約60℃で軟化し始めます。
- 向いている用途
- フィギュアやキャラクターのモデル
- デザインの確認を行うための試作品
- 雑貨や小物など、高い強度や耐熱性が不要なもの
- 3Dプリンタでの注意点
- 夏場の車内や直射日光が当たる場所に置くと変形する恐れがあります。
- 湿気を吸いやすいため、乾燥剤を入れた密閉容器などで保管するのが理想です。
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
- 材料の特徴 強度、耐久性、耐熱性に優れた、工業製品にも広く使われるプラスチックです。PLAよりも衝撃に強く、粘り気があります。後加工(切削や研磨、塗装など)がしやすいのも特徴です。
- 向いている用途
- ギアや治具などの機械部品
- 自動車の内装パーツやケース類
- 実用的な強度を求めるパーツ全般
- 3Dプリンタでの注意点
- 印刷時に大きく反りやすいため、ヒーテッドベッドと、庫内を保温するエンクロージャー(筐体)がほぼ必須です。
- 印刷中に特有の臭いと有害ガスが発生するため、十分な換気が必要です。
PETG(ポリエチレンテレフタレートグリコール)
- 材料の特徴 PLAの扱いやすさとABSの強度・耐熱性を兼ね備えたバランスの良い材料です。強度が高く、層同士の接着も強力です。化学薬品への耐性もあります。ペットボトルに使われるPETの改良版です。
- 向いている用途
- 実用的な強度を持つ機械部品
- 水筒や食品用コンテナ(※メーカーの仕様を確認してください)
- はめ込み(スナップフィット)構造を持つパーツ
- 3Dプリンタでの注意点
- 印刷中に「糸引き」が発生しやすい傾向があります。
- 湿気を吸いやすいため、PLAと同様に乾燥保管が必要です。
TPU(熱可塑性ポリウレタン)
- 材料の特徴 ゴムのように非常に柔軟で弾力性があるのが最大の特徴です。曲げたり、伸ばしたりしても元の形に戻ります。耐摩耗性にも優れています。
- 向いている用途
- スマートフォンのケース
- 腕時計のバンド
- 滑り止めや衝撃を吸収するダンパー
- ドローンのパーツ
- 3Dプリンタでの注意点
- 柔らかすぎるため、印刷速度を大幅に落とす必要があります (15~30mm/s程度)。
- フィラメントが途中で絡まないよう、ノズルのすぐ近くにギアがある「ダイレクト式エクストルーダー」を搭載したプリンタが推奨されます。
ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)
- 材料の特徴 基本的な特性はABSと非常によく似ていますが、ABSの弱点であった耐候性(特にUV耐性)を大幅に向上させた材料です。長期間、屋外で紫外線にさらされても劣化しにくいのが強みです。
- 向いている用途
- 屋外で利用するガーデニング用品や看板
- 自動車やバイクの外装パーツ
- 常に紫外線にさらされる場所で使う部品
- 3Dプリンタでの注意点
- ABSと同様、反りやすいためヒーテッドベッドとエンクロージャーを推奨します。
- 印刷時には換気が必要です。
PC(ポリカーボネート)
- 材料の特徴 エンジニアリングプラスチックの一種で、極めて高い強度と耐衝撃性、耐熱性を誇ります。透明度が高いのも特徴の一つです。その強度は防弾ガラスにも使われるほどです。
- 向いている用途
- ドローンのフレームなど、最高の強度を求める部品
- 高温環境下で使用する工業用パーツ
- 耐衝撃性が必要な保護カバー
- 3Dプリンタでの注意点
- 印刷が非常に難しい上級者向けの材料です。
- 300℃近いノズル温度と100℃以上のベッド温度が必要で、対応するプリンタが限られます。
- 極めて吸湿性が高いため、使用直前まで真空パックで保管し、印刷前に数時間乾燥させる必要があります。
ショア硬度とは
ショア硬度(Shore hardness)は、物質の硬さを表すための指標の一つで、特にゴムやプラスチックのような比較的柔らかい材料の硬さを測定するのに広く用いられます。
一言でいうと「針を押し付けたときの、物質のへこみにくさ(反発力)」を数値化したものです。
測定方法
ショア硬度の測定は、「デュロメーター」と呼ばれる測定器を使って行います。測定器の先端には特定の形状をした針(圧子)がついており、これをバネの力で材料の表面に押し付けます。
- 柔らかい材料ほど針が深く沈み込むため、数値は低くなります。
- 硬い材料ほど針が沈み込まず、反発が強いため、数値は高くなります。
この測定は簡単かつ瞬時に行え、測定対象を傷つけにくいのが特徴です。
ショア硬度の種類(スケール)
測定する材料の硬さに応じて、いくつかの「スケール(尺度)」が使い分けられます。最も一般的に使われるのが「ショアA」と「ショアD」です。
スケール | ショア A (Shore A) | ショア D (Shore D) |
対象 | 柔らかいゴム、エラストマー、ゲルなど | 硬質ゴム、半硬質〜硬質プラスチックなど |
圧子形状 | 先端が丸まった円錐台形 | 先端が鋭利な円錐形 |
特徴 | 非常に柔らかい材料の微妙な硬さの違いを測定するのに適している。 | ショアAでは測定できない硬い材料を測定する。 |
これらのスケールは連続しておらず、ショアAの最大値(100A)とショアDの低〜中間値が重なる領域があります。例えば、「95A」と「50D」は近い硬さですが、異なるスケールで測定されています。
身近なものとの硬さ比較
数値を言われても分かりにくいので、身近なもののショア硬度と比較するとイメージしやすくなります。
ショア硬度 (目安) | 身近なものの例 |
20A | グミ、ゲル状の衝撃吸収材 |
40A | 消しゴム |
60A | 自動車のタイヤ |
70A | 靴底、腕時計のバンド |
95A | ショッピングカートの車輪 |
50D | (95Aとほぼ同じ硬さ) |
65D | ゴルフボール |
75D | 安全ヘルメット、レゴブロック |
85D | 鋳鉄、硬質プラスチック |
このように、ショア硬度は製品の用途や求める特性(クッション性、耐摩耗性など)に合わせて、材料を選定する際の重要な指標となっています。
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